八甲田山 死の彷徨

旧ブログより(2006年01月13日記入)

八甲田山・死の彷徨 DVD 映画本日の名画紹介・・・
これどす!
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八甲田山(DVD)

高倉健北大路欣也秋吉久美子加山雄三三國連太郎らが競演した話題作。
原作は山岳小説で有名な新田次郎氏。
新田次郎氏はNHK大河ドラマ『武田信玄』の原作者でもあります。

この作品は実話がもとになっています。
日露戦争前夜、寒冷地での戦いを危惧する青森県陸軍では、
青森と弘前の両旅団から隊を代表する連隊を出発させ、
八甲田ですれ違うという雪中行軍訓練を行います。
その結果、青森の連隊が雪の中、遭難し事実上、壊滅したのです。

決して壊滅した連隊の指揮官 神田大尉(北大路欣也)が
無能だったわけでも、油断していたわけでもありません。
彼は徒手空拳から努力と才能によって、大尉に昇進した逸材でした。
元新聞記者の原作者・新田次郎氏はそこを克明に取材しています。
しかし、全権をほぼ委任された徳島大尉(高倉健)に対し、
神田大尉は連隊の思惑の前に、自らの意志とは異なる決断を迫られていました。

そして、静かなる大自然が牙をむいたとき、
両者のこのおかれた立場の違いが、神田隊に大きな悲劇を与えたのです。

原作と映画でもずいぶん細部は異なるのですが、
上に立つものとはどういうものなのか、組織とはどういうものなのか、
嫌というほど感じる作品です。

雪中行軍のシーンは何度見ても、本当に寒気がします。
吹き荒れる吹雪の中で倒れ行く兵士たち。
指揮系統は混迷を深め、さらに彼らを死地に赴かせる。
人間とはこんなに無力で弱いものかと思います。

「軍」という組織の中で個々の人間には何ができたのだろうか。
好漢とも呼ぶべき二人の明暗を分けたのはいったいなんだったのか。
責任とは何なのか、さまざまな問いが突きつけられます。
そんなとき、いくつかのシーンに人間の強さというか、
最後の意志のようなものを見せつけられます。

ギリギリの極限で、きみならどうする!
そう問いかけられているような気がします。

説明になっていない文章ですが、最後に1シーン、
この映画の中で唯一、本当に明るい気持ちで見られるシーンを紹介します。

秋吉久美子演じる村娘が徳島隊の先頭に立って、
中継地点の村を行進するシーン。これはいいですよ。
吹雪の中、必死に進んできた兵たちが自分たちを導いてくれた娘(若妻)に、
観音様への思慕のような思いを抱いて、胸を張って行進していく。
いつしか雪はやみ、空はカラッと晴天。
そんな部下と娘を温かく包み込み、高倉健演じる徳島大尉の暖かい眼差し……。

 

実はこのシーン、原作にはありません。
軍の傲慢さ、閉鎖性を伝える内容になっています。
しかしあまりにも苛烈で悲愴なシーンが多い、この作品で、
このシーンを入れたことが一服の清涼剤でもあり、
かえって神田隊の悲劇を浮き上がらせている、私はそう感じます。

 

決して楽しい映画ではありませんが、
日本映画を代表する、すばらしい作品です。