近ごろ、朗読CDを聴くようになった。
昔は『朗読者』と云うフィルターを通ると、もう純粋なものではない、などと決めつけ、自分は本を読もうと考えていた。
ところが五十路を越えると、さすがに目がショボショボして長時間は読めないし、物語に没入できない。
遂にシャッポを脱いで、朗読CDを手に取ったがこれがなかなかいい。
やはり感情の入りすぎは邪魔になる。間と余韻が大事なんだろうと思う。
一作、簡単に紹介したい。
著者は、『ギンギラギンにさりげなく』や『愚か者』の作詞や、夏目雅子や篠ひろ子の夫としても知られる伊集院静さんだ。
物語のテーマは、読んだ(聴いた?)人によって異なるだろうが、私は『再生』だと思った。
二人の娘は既に嫁に行き、妻は2年ほど前に病で先立った。
彼は会社が町場の一工場だった時に就職し、妻を紹介してくれた上司の言葉を大切に生きてきた。
不器用と陰口を叩かれつつも今日まで勤め上げた。
『男の仕事には心棒がある』
『技術者は未来を見、俺たちは今を見、一緒に未来を切り開いていく』
工場が会社になり、世界へと進出する中で、彼は出世街道を外れ、閑職へと追いやられた。
「私はだれより、あなたを尊敬しています」と云ってくれた妻は、
「あなたの仕事を最後まで支えられず、すいません」と言い遺して、去っていった。
もっと家庭に、妻の体調に気をつかえばよかったと彼は思ったが、後の祭りだった。
形式だけのお別れ会を遠慮して午前中で退社した彼は、通勤電車からずっと見えていた大きなケヤキの木に会いに行く。
「長い間お疲れさまでした」
その一言・・・たった、それだけの日々だったのか、彼はそれを木に尋ねたかった。
結婚して、直ぐに家を買い、そこから何十年。その木は通勤する自分を毎日、見ていた。
ところが・・・
短編なので本を読むのもよし、弊店で朗読CDを購入いただければ、さらによし(^^;
一度は触れてみて戴きたい物語です。
若い人より、年配の人の方が気持ち、通じるかもしれません。
命が溢れている時代にはわからなかったことが、年を経るとわかることもあります。
いい作品です。
▷ 懐かしのフォーク&ポップス
▷ 近藤真彦ベスト全曲集(伊集院静作詞曲多数あり)
▷ 萩原健一ラストアルバム(『愚か者』収録)