サザン熱冷めやらぬ中、エノケンのCDが入荷した。
エノケン=榎本健一は戦前・戦中・戦後をまたいで舞台、映画、音楽すべてで人気を博し昭和の喜劇王と呼ばれた人物だ。
ドタバタやアホを演じる『笑い』ではなく、舶来音楽やジャズやオペラのエッセンスと日本の民謡や歌謡曲を混ぜ合わせ、持ち時の軽快な動きとユーモア溢れる演出で笑いを織り交ぜていく。
正にステージと云う笑いだった。
時代は日中戦争から第二次世界大戦へと続くときだったから、『笑い』への当局の干渉は辛辣だった。
三谷幸喜の舞台『笑いの大学』でも描かれるが、これはダメ、あれもダメ、やっぱりそれもアカン・・・そんな暗い時代に「笑い」を諦めなかったのがエノケンであり、ロッパであり、名もなき芸人たちだった。
サザンの歌には、言葉遊びや語呂遊び、下ネタを盛り込んだコミカルソングがけっこう存在する。
『チャコの海岸物語』や『マンピーのGスポット』『エロティカ・セブン』などが有名だが、デビュー曲の『勝手にシンドバッド』や中村雅俊に提供した『恋人も濡れる街角』、明石家さんまとコラボした『アミダばばぁのうた』も捨てがたい。アルバム曲ならもっとあるだろう。
エロソングだけでなく、コミックソングも多くの人に受け入れられる秘訣は、エロや言葉遊びが野暮にならないことだ。
どこか粋で、スマートに、サラリと歌ってのける。
そうでないと女性は眉を顰めるし、男声だって「オレ、この曲ちょっと好きやねん(^^;」とは言い難い。
好んで異性の反発を買いたい人はいないのだ。
その点、サザンもエノケンも、『デンセンマン音頭』などで知られるベンジャミン伊東(伊東四朗)なんかも見事だった。
もちろん野暮を承知で!のノリのつボイノリオやドリフ志村けんなんかもいるが、彼らはキャラ勝ちというところだろうか。
サザンとエノケン。異なる時代に異なるスタイルで人気を博すが、実は似ているところもあるかもしれない。ユーモアと遊び心あふれるエンタティメント性、大衆に受け入れられるキャッチーさ、そして日本らしさや文化を土台にし、異文化をうまくアレンジしとりこんでいること。
歌には時代が宿ると云うが、ひとしきりサザンの音楽を楽しまれた後は、そんな視点で他の音楽と聴き比べて戴くのも一興かもしれない。